【映画】ナイトクローラー/Nightcrawler(2014)【感想】
ジェイク・ギレンホール主演。大好きな俳優の一人。ドニー・ダーコとかミッション: 8ミニッツ、プリンス・オブ・ペルシャ…どれも何度も観ちゃう映画。
しかしこの映画…恐ろしい映画です。端的に胸糞悪い系映画です。何度も観たくないかもw度合いは…それこそ個人のモラルに左右されるかもしれません。気にしなければ気にならない事。それが怖いのです。
第87回 アカデミー賞脚本賞ノミネート!視聴率至上主義が生む戦慄の報道パパラッチ。ニュースが伝えるのは、真実か?©2013 BOLD FILMS PRODUCTIONS, LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
全体的に夜が非常に綺麗に描写/撮影されている映画です。OP、EDの月夜の映像はパソコンの壁紙に欲しいくらい。併せてBGMも合っているし、とにかくすごく綺麗です。
その綺麗さが夜という静謐感のある時間帯、そのもう一つの面、隠匿された犯罪/騒乱を綺麗なコントラストで表現しているような。
気取った感じの映画にも思えますので、のめり込めるかどうかは人によります。
娯楽映画のような吸引力はないです。絵画を鑑賞するような感じで視聴する映画ですね。
出だしから主人公ルーのクズっぷりが最高です。主人公は主人公なりに非常に真面目で一生懸命なのですが…実のところ素晴らしい学歴も職歴も実績もない。
もう一つ、この作品のベースにはモラルが低下している/する社会情勢というのは欠かせないのではないでしょうか。あてにならない警察(LAですし事件は多いから手が回らないのもありますが)、不況、高い失業率、倍率の高い求人、軽犯罪でしか生計を立てられない状況…悪意に満ちて悪循環に陥った社会。
日銭を稼ぐ中、ハイウェイでルーは交通事故とそれを撮影するクルーを目にします。
その出会いがルーにとってまさに岐路となります。
ニュースでは毎日事故や事件などの(凄惨さのある)ニュースが流れています。日々需要があるわけです。これは稼げるのではないか?きっとキッカケはこのくらいの気持ちだったと思います。
最初は機材も撮り方もアマチュア…しかし徐々に機材が揃い(カメラやライト、警察無線を傍受するツール、車…etc)、人を雇ったりと元来もつ主人公の行動力と勤勉さが光ります。そしてもうひとつ、交渉術のスキルも徐々に磨かれていきます。序盤のコソ泥の時の交渉から、ディレクターや同業者達とのやり取りを経て、一種のカリスマ的な人物に変貌していく様は鳥肌がたちました(気持ち悪くて)。
雇った助手リックに語るビジネス論など所詮ネットで拾った付け焼き刃の情報なのに、自信を持って発言するその様に飲まれるというか?客観的に視聴者は「何言ってんだコイツ、職なしコソ泥だったくせに」と思うはずですが、実際にこういう人がいたら…?自信たっぷりに語る姿に嘘だとか思う以前に、気圧されるように「そういうものか」と思うでしょう。
実際、リックはルーから罵倒される日々の中で徐々に誘導?されていくわけですし。
またストーリーが進むにつれルーの表情も日々の生活の焦燥感から、センセーショナルな絵を撮るために貪欲な、ギラつく表情に変わっていく…この辺のジェイク・ギレンホールの演技(とメイク)で画面に惹きつけられれてしまう。洗面所で鏡を割るシーンなど怖いくらい。
そしてルーが映像を売り込んでいたTV局のディレクターもおかしくなっていきます。
視聴率低迷であえぐTV局のディレクター。番組にテコ入れできる映像がほしい。そのために凄惨な現場を伝える、という意識がやがてそういう絵(映像)を求め、そういうシナリオを求めることに変わっていく…。真実ではなく視聴率を維持する事実と脚本のみが優先されていく…。いったいどこからモラルが消えたのか…境界が非常に曖昧。
放送コードに引っかからなければいい!と声を大に言った辺りは確実かな…。
ルーの方もどんどん常軌を逸していきます。もともとクズだったのですが、クズから人非人に変わります。同業者の事故に同情するどころかネタにする、事前に殺人事件現場にいながら通報よりも撮影を優先…ニュース放映を意識してあえて通報を遅らせるなど。
撮影する側からみれば非常に合理的です。
合理性を常に追求しているのです。
ルーもディレクターも、どちらもごくごく普通の、しいていえば仕事熱心な人。欠点をあげるなら地位みたいなものに貪欲になった点でしょうか。
あ、助手のリックはバカだったと思います。欲に目がくらんだ点もそうだし、実はルーほど度胸もない。要領も良くない。ルーにふっかけてきた事自体が間違いだったように思います。
ルーは確かに大見得きりだけれど、自分のやることに強く自信を持っている。先のことも考えている。勝負どころも見極めている。
リックはそれが出来ない。
のに、ボスに噛み付いてしまったわけです。バカですね―。いや、彼なりに這い上がりたかったんですが…バカですね―。
(思えば出てくる人物みんなクズじゃあないですか…)
終盤のカーチェイスはなかなか良かったです。緊迫する映像がルーの精神状態ともリンクして見えて、最後の盛り上がりとしては良いエッセンス。
よりセンセーショナルな映像を求め徹底的に傍観者になるその姿、自身の繁栄のために貪欲に突き進む姿勢は究極の合理性。
最終的にリックに「イカれている」と評される。
ディレクターからは「素晴らしい」と評される。
警官からは「ウソつき」と評される。
これらはどれも是なのです。
ラストはある種のサクセス・ストーリーとして幕を閉じます。
これまで言っていた口先だけの会社ではなく本当に会社として起業し、車もバンになり、新規雇用まで…。社長として独自のあの付け焼き刃だったビジネス論を展開。
ルー「成功の近道は献身と従順」
ルー「僕は自分ではやらないことを君たちに求めたりはしない」
そんなルーを羨望と期待を含めた目で見つめる新規雇用者(ルーの追従者)達。やがて彼らもモラルを放棄するということでしょうか。
最初は主人公が徐々に狂気に侵されていく映画なのかと思いましたが、ルーは至って正気です。始終正気です。狂気でもサイコパスでもない、合理的に動いただけの普通の人間の姿が描かれていました。
これは一部のYouTuberやニコ生主と同じ感じですね…。Twitterの炎上などにもみられる共通点。凡人が何かを求めて起こした行動――過剰欲求が人間を社会性から逸脱させる感じです。で、これが多くの人が目を背ける人間らしさです。
なので主人公ルーをクズと一蹴するのは浅はかだったかもしれません。端的に言うにはクズですが、ルーは本当にただの凡人です。
私は人間らしさとはモラルの有ることだと思っていたのですが、この映画はモラルをかなぐり捨てることで人間らしさを表現しています。それにリアリティを感じるとは…かるく目眩がします。
私が求める人間らしさとは理想論なのだと、アバターや第9地区ぐらい「汚い!人間汚い!」と叫びたくなる映画です。そんな汚い人間性を綺麗な夜景と音楽、脚本で際立たせてくれた監督に感嘆します。
ガムみたいに噛めば噛むほど味が出る映画ですかね…胸糞悪くなりますが。